「Follow the Rabbit(ウサギを追え)」。MSGM25年秋冬コレクションは私たちを未知の旅へと誘う。たびたび登場するミステリアスなウサギは単なるモチーフではない。それは、遊び心にあふれた子供が徐々にダークで複雑な存在へと成長するように、変化の始まりを意味している。無垢な世界からより成熟し、時として不穏な現実世界へと、二つの世界が複雑に混ざり合っていく過程を映し出している。
本コレクションは反抗、社会の崩壊、相互的なパラレルワールドとの間に生じる緊張をとらえ、混沌と内省との繊細なバランスを表現している。「ドニー・ダーコ」の不穏な世界、「ガンモ」の生々しさ、「不思議の国のアリス」に登場する白ウサギの夢幻的シンボリズム。映画と文学をインスピレーションとし、シンプルさと複雑さ、素朴と洗練を対比させている。二つの映画は2000年代初頭を舞台に、変容する社会に対する若者の葛藤と反抗を浮き彫りにし、若者ならではの魅力と捉えどころのなさを微妙なバランスで描いている。
それは未知の世界へと誘う、変化のオデッセイである。
「ガンモ」に現れる竜巻は破壊のメタファーであり、クィアシーンやパンクムーブメントと共鳴する社会的崩壊
というテーマを映し出す。同様に、「ドニー・ダーコ」 は思春期の反抗と、次第に現実から切り離されていく様を描いており、そのパラレルワールドは崩壊を象徴している。変化、反抗、さらに破壊の中に見出される美の探究はコレクションの土台となっている。
本コレクションのサルトリアル・スタイルはサイケデリックやパンクと融合している。「ソフトコア」のグラフィックは無垢と背徳を対比させ、「I love mushrooms」のスローガンは空想的で実験的な時代を彷彿とさせる。ウォッシュ加工やマーブルウォッシュを施したデニムはグランジのエッセンスを取り込んでおり、シワ加工は精緻なテーラリングに揺らぎをもたらしている。 手仕事によるグリアトゥーラ(gugliatura)ディテールが用いられ、テディベアのような質感のシェルパジャカードが、アウターとニットウェアの間の新たな選択肢といて登場している。
このコレクションの核となるのは、マッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)と、大胆で挑発的な
作品で知られるカナダの著名な写真家、ブルース・ラ・ブルース(Bruce LaBruce)とのコラボレーションである。MSGMのビジョンへのより深い理解を促すべく、ミラノファッションウィーク期間中、ルックブックを撮影するイベントを開催した。 「ラ・ブルースを意図的に選んでいる。彼の写真にはナルシシズムと快楽主義に取り憑かれた社会、現代が映し出されている。カメラの被写体になりたいという狂おしいまでの欲求を浮き彫りにしている」とマッシモは語る。 このプレゼンテーションはファッション、アート、カルチャーの架け橋となり、個性と自己表現が賞賛される空間が創り出された 。
この旅は未知を容認することで達成される。それはおとぎ話の森から始まった。キノコが生え、現実とファンタジーの境界線が曖昧な魔法の森、そこは神秘と魅力に満ちている。未知なるものに身を委ねることで、アイデンティティの変化が訪れる。